「倒錯」experienced。

ノンフィクション – experienced

「本来のあるべき順序や秩序がひっくり返り、
混乱すること」

乙の手元にある参考書には、
「倒錯」の意味としてそう載っている。

そこで乙が真っ先に思い浮かんだのは
組織運営の難しさだった。

以前に甲が
こんなことを教えてくれたような気がする。

「会社には会社の目的があって、
個人には個人の生きる目的がある。
当たり前のことなんだけど、だから会社経営は難しい」

「それは、方向性の問題でしょうか?」

甲は続ける。

「それ以前だよ。
極端に言えば、ふつう会社員は
会社よりも自分の生活の方が1億倍大切なんだ。
まあ当然なんだけど、そういう人は正直扱いづらい」

また愛社精神云々だの
言われるのかなあと乙は身構える。

「待ってよ。
別に社畜になってほしいって訳じゃない」

「でも、個人のことよりも
会社のことを優先してほしいっていうのが
冷たい目で見たら本音ですよね」

甲が若干語気を強める。

「ホント乙さあ、そういうところあるよね。
AorBっていう考え方は全てを不幸にするよ」

「すみません…
てことは、これは両取り(A&B)出来るってことですか?」

乙が改めて尋ねる。

「もちろん。
この世の会社員に足りないのは、
『会社貢献することが巡り巡って自分のためになる』
っていう視点なんだよね」

「ほう」

「もちろん、これは上に立つ側の責任もある。
だけど、会社で働く・貢献するってことと
それが個人の幸せに還元されることが
結びつかないってのは正直ただの知的怠惰だよ」

こんなことを社内で平然といえば問題だろう、
と乙はおぼろげながら悟った。

「会社で成果を出すことが自分の成果・報酬になる。
こんな当たり前のことを忘れて
目の前のことだけで一喜一憂するから、

私は個人の生活があるから〜とか
プライドやらうんたらとか言い出すんじゃないの」

「なるほど…」

今日の甲は珍しくおしゃべりだった。

「だから
『自分は関係ない』『自分は一社員だから』っていう人は
社会人としての姿勢がどうとか以前の問題で、
実は自分の首を自分で締めてるのと同義なんだよね」

乙には他人事として聞くことが出来なかった。

「だから幸せな結論をつけると、
目先の利益とかメンツとか個人の事情を優先するよりも
黙ってやるべきことをやって成果を挙げた方が
後から見てみると得になることが多いって話」

会社とのポジション取りに
一人勝手に葛藤していた乙には一筋の光だった。

 

…筆者、スミカ(Rick)

「倒錯。」

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