「浮世離れ」experienced。

ノンフィクション – experienced

甲は周りの人の意見を重用した。

機会さえあれば、
プライベートでもひたすら話を聴く側に回った。
(幸い、人の9割以上は話す方が好きな為
聴く量を確保する分には困らなかったそうだ)

お互いコーヒー片手に
乙がこう尋ねてみたことがある。

「甲さんほど博識な方が、
どうしてそんなに色んな人の話を聴きたがるんですか?」

甲はゆっくりと、
しかりハッキリと答えた。

「市場調査の一環だね」

「ほお、調査ですか。
それは、マーケティング的な意味ではなく」

「あぁ、それはそれだね。
これはこれとして、より平たく言えば

『今の世の中の人はこういうことを考えている』
という一次情報を直接得るための調査」

乙は静かに耳を傾ける。

「僕に限った話じゃないと思うんだけど、
仕事をしているとどうしても
仕事をしている世界のことしか分からなくなっちゃう。
仕事をしているこの世界が世界の全てだと思っちゃう」

「すごく分かります…」

「だけど、僕らが商売する相手は
『身内』じゃなくて『世間』だからね。
外に常に目を向けるだけじゃなくて、
その『外』っていう世界に自ら参加していないと危険なの」

そう言えばここもいわば『外』だな、と乙は感じた。

「確かに…『顧客目線』とは言いますけど、
本当に顧客目線になっているというよりは
あくまでも『顧客目線というものを客観的に分析している』
だけですもんね」

「そう、その通り。」

甲はこういった数学的・物理的な分析が大得意だった。

「客観的視点、っていうのも確かに大事なんだけど、
『今日の世間は何を欲しがっているのか』を考えるためには
客観じゃなくて主観である必要がある。
その別の名を・・・」

「『当事者意識』」

甲と乙は珍しくハモった。

「いいねえ、乙も分かってきたじゃん」

 

…筆者、スミカ(Rick)

「浮世離れ。」

【追伸】
こんな質問を受けた。
「『ノンフィクション – experienced』って本当にノンフィクションなんですか?」
事実や経験を基にしたノンフィクション風ストーリー、ということにしておこうか。

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