【OneListenOneSoul#9】「監督」としてのシゴトのあり方―Hirokazu Etoさん【後編】

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インタビュー企画「OneListenOneSoul」

こちらの記事は第9回【後編】です。

決して、言葉だけじゃダメ」。
後編では、経理ディレクターという立場のEtoさんに
「人をより良く動かす」監督術とその利点について
お話をしていただきました。

 

 

――ディレクター…「監督」は言葉だけではない。

  そう、ある意味才能もある。経験ももちろんありますけど、仕事が出来ても監督が出来ない人はいる。選手としては一流だとしても、監督としてはどうなのと。他人の力を使って自らの理想を叶える・叶えないといけないのがマネジメント。彼ら(部下)の強い部分を最大限に引き出して仕事をさせると。

――モチベーションの維持やマネジメントはどのように。

  簡単に言えば、ほめの一言。褒めるのが大事。そして失敗しても正直に言ってくれたらあまりそれ以上咎めない。そりゃあ仕事でも時には間違ったりするから、それ自体は指摘するけどその対策やアドバイスを与えてやったり。

  そうしたら怒られるばっかりじゃなくて「改善したいが為なんだ」「守られている」というのが見える。安心感を与えると頑張るよね。

  もちろん給料も大事で、バランスや規則もあるけど頑張った人にはそれに合った対価をしっかり与えていくべきだよね。ポジションも徐々に昇進させたりとか、結果に対してはちゃんと報いを与えた方が部下がついてくる。

  日本だと待遇を改善することに反対だったり文句ばっかりの場合もあるけど、日本と違ってアメリカやメキシコだとそうしないと(人材不足・待遇の競争激化で)会社を辞められちゃうからね。

――アメリカとメキシコの会社ではより人が辞めやすい。

  特にメキシコの国境にある会社の離職率は、実は年間で100%を超える(数字上、全ての社員が年に最低1回は入れ替わってしまう計算)会社が多いです。

  皆転職サイトとかに登録していて、そういうのはしっかり見てる。そしてより良い待遇の職場があればあっさり行っちゃうんだよね。一時期、新しく入った社員が半年くらいでどんどん出て行っちゃって私のいる会社がトレーニングセンターのようになっていた時期もあったよ笑。

――人を雇う側としての難しい点は。

  やっぱり、彼らのモチベーション維持がすごく難しい。一回止まってしまったら・満足しきってしまったら仕事が怠慢になったり、別の仕事を探し始めたりして長く会社に居てくれない。

――そこはかとなく、野球の「監督」のよう笑。

  そうだね。昔は作業も分析もチェックも自分一人で全部やってたけど、今はそれらの内ある程度は下に任せて。下を育てておくと自分がラクになるし、逆に下が出来ないと自分自身が忙しくなってしまう。

  それをやっちゃうと、自分の他のマネジメントが出来なくなっちゃうからダメ。ちゃんと「Right Person(正しい人:適材適所)」のポジションにおいて日頃から育てないと。

――それは今現在でも同じ。

  そう、例えば今の私はメキシコ人女性の部下を持っていて。彼女が超の付く数学の天才で笑。最初は知らなかったから大きな期待はしていなかったけど、偶然その能力に気付いてちゃんと話をして。

  「この人なら絶対にもっと出来るようになる」と育てていって、今では7年位の付き合いかな。今は工場の現場の経理作業とかの通常業務は全部彼女に任せられるようになりました。

  もちろん彼女にも弱い部分はあって、例えばイニシアチブとかがほとんどない。そういう弱点はこちらでフォローして、彼女の強い部分をより一層活かす。他には月次決算書とかも2人で見るけど。

――そうして意識してちゃんと「育成」をする。

  そう、そうしておくと何より自分自身がラクになる。自分だけでやっていると限界があるから、そこはうまく下に振り分ける。

  私は上司として自分にしか出来ないこと…例えば上層部とのコンタクトやレビュー・決算報告を日本語でまとめるといったことはやって、あとの下に出来ることは私は全部下に回すようにしています。そうしないと、忙しくて回らないんだよね。

  以前、新しいポジションで働き始めた頃に前任者との引継ぎ作業が出来なかった事がありまして。その時の私はいわばプレーイングマネジャー(Playing Manager。選手兼監督)になってしまっていたから、3時間くらいしか寝れない生活が3~4か月続いたね。

  生活リズムももちろん崩れて、便秘になってしまって。あの時はとにかく「自分でやらないと」という重圧があって、夜家に帰る時間が10~11時とかだったかな。

――日本だと、中々下も雇ってくれない。
  日本の会社は、とにかく人員とコストを減らそうとするからね。でも、今のアメリカ勤務では違います。「経験を生かして人を使ってくれ」とアメリカでは人を雇ってくれる。でもアメリカのマネジメントの場合は、結果を出さなければ明日解雇というシビアな面もあるけどね。

  そんな風にもちろん日米両方に良い面と悪い面とがあるけど、日本は細かいことまで分析させて、その中にはいらない情報もレポートもある。減らさないと。増やさない・作らせない。その点、アメリカでの書類は最低限。逆に少なすぎてこんなもんでいいの、と笑。

――アメリカの会社は「おおらか」なのか。

  特に社長レベルとかになると、小さなことは基本気にしない。出張の旅費だってレポートの義務はないし、ホテルの金額指定もない。そもそも、アメリカは「出張に『行ってもらう』んだから、ある程度のホテルと食事は必要」という考え方。

  でも日本は「出張は『仕事・当然の義務』だから、とにかく安く。ホテルも食事も最低限」というスタンスだよね。中には出張費が一切出ない会社もあるし、私自身も名前を知っています。これはおかしいと思います。アメリカでやったら誰も出張に行かないですよ笑。

――日本は「縛ろう」「削ろう」とする。

  そもそもなんで出張させるって、「そこで仕事をやり遂げる」のがメインなのであって、例えば商談を取ってくるのが目的だよね。そこで例えばホテルをケチってモチベーションを下げるようなことは避けたい。

  特にお客さんがいい所に泊まっていて、こちらが低かったりすると商談の席で足元を見られてしまうこともある。そこはある程度同等にして、変な場所で削るよりも目的の達成を優先させる。国際便の飛行機だって、ビジネス位の待遇は必要だよね。まあ、例えば舛添前知事までいくとやりすぎだとは思うけどね。

 

(「上司としてのマネジメント」
について話しているとき、

ここでふと話題が
日本で以前に話題になったあのニュースに。)

  少し前に、電通の若手社員が過労死したことがニュースになったよね。私に言わせれば、あれは完全に上司の責任です。その人のバランスも見て、出来ない事は「出来ない」とお互いに言い合える関係を作っていないと。それは上司の仕事であり義務・責任です。

  まず、今回のような「やらされる仕事」と「やる仕事」とではモチベーションも大違いだし、パワハラといった精神的苦痛も大いに味わわせてしまうことになってしまう。

――電通の例のニュースもご存知でしたか。
Etoさんご自身は、部下と接する際にどのような意識を。

  部下を育てるのは、アメとムチ両方であるべき。もちろん時には叱るのも必要だけど、雇った以上「育てる責任がある」というのを上司として念頭に置いています。だからちゃんと、ある程度の責任を伴う・持たせられる仕事を任せる。

  過剰になったり、オーバースペックになったりしたら調整すればいい。(私の主な部下の)メキシコ人とかだと結構自信過剰だから笑。そこを諭す時もある。

 

おわりに。

――日本の若い世代へ向けて。
管理職として、どのような人材が「欲しい」か。

  一番ラクなのは素直な人です笑。そしてやる気がある人。もちろん能力も人それぞれありますけど、学歴や資格というよりはnatural-smart(地頭が良い)の方が飲み込みが早いのでこちらも教えやすい。それでいておごらない、のぼせない。謙虚であることが理想だね。

――素直に、謙虚さ。

  文句ばっかり言われると仕事を頼みづらくなるからね笑。「え~っ」て言われても。例えばアメリカ人とかは説明して理解したらやるけど、それまではブツブツ言いますよ。だから「やりづらい」。それと比べると、メキシコ人は理解しなくてもハイハイやるし、返事はとてもいい。「返事がいい」というものちょっと怖いけどね笑。

  でも、やってて素直な方が上司としてもラクです。そしてのぼせてしまうとそこで成長が止まってしまうから、そこは適度にクギを打つようにしています。

――では最後に、ご自身の今後の目標を。

  私の子供も次男が大学を今年の6月に卒業して、長男も大学院の過程を今年度末を終えます。そうしたら一区切りで後は自分のしたいこと、旅行でも仕事をしながらで計画していきたいね。

  仕事はある程度出来るところ・会社が要求するところまでやって、あとは自分自身の人生も楽しんで。そうしないと、仕事ばっかり集中してると引退した時にギャップが来るから。

――引退も見据え始めている。

  日本でも引退する年齢が上がってきているけど、アメリカは引退する時は自分で決めるもの。年金のタイミング等も見計らいながら、65までやるか・その前または後になるか…正直、今の時点ではアメリカ滞在か日本復帰かも分からない。とりあえずの目標としては今の会社に求められるまでやって、あとは自分の人生かな笑。

――ここまでのアメリカ滞在は予測していた。

  いや、正直アメリカにこれ程長くいるとは思っていなかったね。当初はESLだけやって帰る予定だったけど、先ほど話した先生の一言があって、そして香港出身でアメリカ志向だった妻と出会って、彼女にせかされるままにグリーンカードをとって笑。

  これからどうするかと考えるのは難しいけど、もうアメリカに30年以上いるから日本にいる日本人の知り合いから「日本人らしくない」って言われる笑。日本に帰るとして色々とついていけるかとは思うけど、とりあえず元気なうちは定期的に日本も訪れたいかな。

――この街(フロリダ州サラソタ)は。

  実はそんなに詳しくないです笑。まあフロリダも住みにくくはないけど、東洋人がほとんど居ないから違和感がある。カリフォルニアとかは日本人も多くていいけど生活費も税も高すぎるし。その点フロリダは経済的には住みやすいけど、なんせ日本から遠いのがね。

  奥さんとよく話しているのは『ヒューストンあたりに住みたいね』と。大きい空港もあるし、ユナイテッド航空のハブ空港だから成田直通便もある。それに、病院もたくさんあるからね。

  でも、結局仕事がどこにあるかだから今はここで頑張って。そして今はマキラドーラ・ビジネス関係もやってるから、この経験を活かしてコンサルティングも出来る。もし日本の企業でメキシコ進出の要望や計画があったらお手伝いできる。そんな事もやってみたいね。

――これからの若い世代へ、最後に改めてアドバイス等あれば。

  ある程度特殊な技術や経験――「武器」を持っておけば、景気が悪い時も流されずに社会のニーズに合わせることが出来る。そういうのは言語にしろ、何にしろこれから持っておかないと。

  でも「今流行っているもの」は別で、例えば昔のアメリカは弁護士になれば安定と呼ばれていたけど、今はむしろあまっちゃってる。将来も見越して動く必要はあります。

  そうしないと、自分がいざ年を食った時に大変で。でもその時に自分が武器を持っていれば雇ってくれる場所は必ずある。私だって正社員として仕事を始めたのは29才だし、今のこの会社に入ったのは46才だから。

  そして日本での多くの場合と違って、アメリカは転職すると給料が上がっていきます。私の場合は正直景気や運に助けられた部分もあったけど、いかに時代に必要とされるように努力するか――それが、メッセージです。

  他の人にないもの、将来その価値が続くもの。今から50年後・100年後とかになると、世界はもっと混沌とする。地下通路・空飛ぶ車・ドローン…例えば配送などでAIの活躍がもっと顕著になるかもしれないから、そんな将来を予測するのも大変だけどね。

  人間もどんどん寿命が延びて、平均寿命が100才を超えるような時代・介護ロボットが活躍するような時代が来るかもね。そうなると、尊厳死や安楽死も法的に認められるようになるかもしれない。そうでなければ、今のペースで人口が増え続ければ――食料が水が不足して、それらをめぐった戦争が始まるかもね?

 

 

今回のゲスト

Hirokazu Etoさん

現在はフロリダ州サラソタ在住。
阿蘇製薬アメリカ支社の経理シニアディレクターを務める。
アメリカ・メキシコ間でのマキラドーラ・ビジネスに精通する。
香港出身の妻と2人の息子がいる。

Etoさんともっと話がしてみたい…という方は
彼のトラベロコまでぜひどうぞ。

 

この場を借りてという形になりますが、
この度本企画のインタビューに
ご協力いただいたHirokazuさんに
改めてお礼申し上げます。

(収録日:2017年7月8日)
(場所:フロリダ州サラソタ)
(聞き手・編集:スミカ(Rick))

⇒筆者(スミカ)のプロフィールはこちらから⇐

 

コメント

  1. Ramon より:

    Good Job, Eto san!

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