【OneListenOneSoul#9】マキラドーラと米墨関係―Hirokazu Etoさん【前編】

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どうも、こんにちはスミカ(Rick)です。
今週は、ジョージア州アトランタに入っています。
アメリカ南部の日本人を巡る旅
ディープサウス日本人編」の日程も
後半戦から佳境へと入っていきます。

 

さて、今回はインタビュー第9回
今回のゲストは、日本の熊本県に位置する
阿蘇製薬がアメリカ進出しているAso Corp.にて
経理部門シニアディレクターを勤めている
Hirokazu Etoさんです。

この【前編】では、
アメリカとメキシコの2国間で行われる
マキラドーラ・ビジネス」を支えるEtoさんに
米墨関係・そしてメキシコという国の
実情や舞台裏についてお話していただきました。

それでは、本編をどうぞ。

 

 

――本日はよろしくお願いします。
ではまず、現在のお仕事について。

  Aso Corporation(日本の熊本県に位置する絆創膏大手・阿蘇製薬がアメリカに進出している)という会社でシニアディレクターを担当しています。「Senior Director of Finance」とはあるけど、実際は権利全般のことを含んだ経理・管理をやっています。

  この会社はアメリカでのプライベート・レーベル、つまりウォルマートやCVS・ターゲット(米大手の小売業)などのブランドとして売られているものを製造しています。つまりそれらのブランドの製造元がうちで、その小売業者の名前で売るので会社の名前自体は表には出てきません。

  そんなアメリカでのプライベート・レーベル業界でのシェアがナンバーワン。今はフロリダ州内にも2社見ている工場があるのと、メキシコに製造工場・テキサスに配送センターがあります。それらの経理関連の仕事に携わっています。

――江藤さんの仕事の場合の「経理」とは。

  今はシニアディレクター(管理側)として経理部門のマネージャーから来る決算報告書のレビュー、そしてそのレビューをした上で月ごとの報告書のまとめを本社に送っています。

  後はオーナー関係の仕事であったり、ハワイでオーナーと直接話し合ったり、海外のグループの効率化にも力を入れています。そして少なくとも年に一度は、熊本にある本社を訪問して年次決算報告と次年度の予算報告を行います。

――(「オーナー」等)一緒に働かれる方は。

  私の直属の上司は現地(フロリダやメキシコ)のアメリカ人の社長です。彼とはいつも私の部屋で人事などの現場レベルのことからフィリピン・メキシコ・ヨーロッパへの工場進出やシェアの調整といった将来の計画などを話し合っています。

  この9月にはハワイ出張があって、去年もハワイに2回・日本に3回・メキシコに11回とかなり出張が多い仕事でもあります。

――アメリカとメキシコでの工場生産。

  そう、これをマキラドーラ・ビジネスと言ってね。アメリカとメキシコが共同でやっているプログラムで、1965年位から始まりました。まず、アメリカの親会社がメキシコに材料を無関税で提供する。その材料を使ってメキシコで商品を製造して、NAFTA(北米自由貿易協定)によってアメリカに無関税で輸出するというものです。

  2国間の経済力を最大限活かすために、メキシコの安い労働力を使ってアメリカで低価格・高品質の製品を素早く提供すると。私はそれの経理・管理をやっています。

――アメリカがメキシコに経済協力している。

  メキシコの経済は、アメリカのそれと比べたらまさに雲泥の差。だから、アメリカのより良い生活を求めてメキシコ人が不法にアメリカに入って来ちゃう。アメリカの経済が好調な時はいいけど、悪いと彼らがアメリカ人の仕事をとっちゃう…とトランプ大統領を筆頭にアメリカ人は判断してしまう。

  それを防ぐ、という意味でもボーダー(国境沿いや近く)のメキシコ側の街に工場を作って仕事を提供することにより、不法侵入者の数を減らす効果があると。

  もしメキシコに仕事がなかったら、彼らメキシコ人はどんな危険でも冒すしかない。すごく危険なことだけど、やる事が何もない・その日暮らしの生活よりもリスクを承知で砂漠を渡ってアメリカに来てしまうから。だから、(アメリカからメキシコへの)ある程度の雇用提供は必要だよね。

――「メキシコ」、という国とは。

  一言でいえば、「資源に恵まれた国」。経済はまあまあある。世界には「先進国」として認められ、国際会議にも入っている。1846年にメキシコ戦争がおこった時に今のアメリカ南西部をアメリカにとられちゃったけど、それでも土地は日本の5倍はある。人口も日本と同じくらい。でも日本とは違って、豊富にあるのが天然資源。石油や鉄鉱石がとれるし、柑橘系のフルーツも採れる。

  そしてメキシコという国の一番のアドバンテージは世界一のマーケット――アメリカがすぐ隣にあること。これは大きくて、作ったものをすぐに・安くアメリカに送れる。それなのに、同じくアメリカの隣にあるカナダと比べると色々な面で遅れているし、政府官僚の汚職も蔓延している。

  何もかもが揃ってるから、逆に人材が育たない・努力をしない。メキシコという国は、そういうところがあるんだよね。何もかも揃った環境で生まれ育った金持ちの孫がその会社を潰す・・・例えるならば、会社の家族経営の悪い面と似ていますね。

  昔から今に至るまでずっと、他の国の投資と石油で成り立っているのがメキシコ。他のアジアの国々(日本も含めて)も最初はそうだったし、先進国の模倣・真似から始まっていたけど、そこから自力で工夫して自分たちだけのものを創り出してきた。それが日本で言えばトヨタや日産・ホンダ・ソニー・パナソニックとかのグローバル企業だよね。

  でも、実は「メキシコ発祥の会社」というのはそう多くはない。セメント会社とビール会社くらいかもしれないね笑。少し頭を使えばノウハウを自分らで学んで活かせるのに、現状として他の国から使われることに甘んじている。それが国民性なのか、自分たちからの主導性・野心を持った人が少ない。猫と犬に例えると、メキシコ人が犬でアメリカ人は猫といったところでしょうか。

  でもその代わり、メキシコの人々は性格が良くて優しいんだよね。アミーゴ(amigo、「友達」)の世界だから皆仲がいいし、昔の日本人のようにお互いに助け合う。メキシコ人との方が仕事をやっていても楽しい。いわゆるアメリカ人とかの「仕事バリバリ」になると、性格もどぎつくなってくるんだけどね笑。

――アメリカとメキシコの2国間の繋がりも強い。

  もちろんです。今の大統領の様に『国境に壁を作る』っていうけど、もし既にアメリカで生計を立てているメキシコ人すら追い出してしまうと、例えばグレープフルーツは誰が摘みますか、白人・黒人がやりますか。彼らにやらせるとなると、メキシコ人の3~4倍もの賃金を要求してくるかもしれない。そしてその分、フルーツの値段も3~4倍になる。

  それが現実的なのかな、と私は思います。現実として、カリフォルニアでもテキサスでももちろんここ(フロリダ)でも、不法滞在で働いている人も沢山いるんだよね。

――Etoさん周辺の大統領選当時の反応。

  まず、世界が間違いなく反応・注目していたよね。アメリカは世界の経済・軍事のリーダーだから就任当初は特に皆不安があったのは確か。でも今はあれから半年くらいたって、特に何も変わってない笑。大統領令も随分と出してるけど、たいてい却下されるし。メキシコとの間に壁も出来ないし笑。

  そもそも、アメリカとメキシコの国境沿いにはフェンスが既にあるんだよね。また追加で壁を作って意味があるの、と。そして国境を越えてくるような人達は、フェンスなんか通らずに地下に穴を掘ったりするよね。意味あるの、と。特に麻薬組織とかは、金にものをいわせてどんどん地下トンネルを作っているよね。もしアメリカがさらに壁を作ったとしても、イタチごっこでお金と時間が消えていくだけですよ。

――そして、今現在の大統領。

  何千億も国家予算を使うと公言して…彼の出だしは多少は驚きましたけど、今は「なんにも出来ねえ奴だ」と思われてます笑。そこら辺に関しては三権分立がしっかりしてるから、大統領がいくら強くても独裁が出来ない。さすが、アメリカは先進国ですね。

  例えばアジアやアフリカ諸国・かつてのソ連などとは違って、民主主義が先進国として立証されている。上が強すぎると、例えば憲法がポンポン変えられかねない。メキシコなんか、建国から400回以上も憲法変えてるからね。まあ、あんなに憲法を変えないことにマジメなのは日本だけですけどね笑。

――日本でもここ数年で特に「憲法改正」が議題に。

  日本は第二次世界大戦で痛い目にあってますから、同じミスを繰り返しまいとかなり慎重になっている。というよりは、平和ボケだよね笑。ずっとアメリカ頼り。自立心が無くなってきている。本当にいざという時、他の国がわざわざ守ってくれるの?と感じています。

  私の意見では、日本もある程度の自衛手段は持っておかないと…と思っています。あまりにエスカレートしてしまうと第二次世界大戦みたいに血気盛んな連中が出てくるから、そこは「ある程度」でアジア諸国に対する抑止力・自衛力の証明に抑えておく必要があるね。全てがバランス。バランスが崩れれば争いや戦争が起きる――これは、人類のこれまでの歴史を見れば一目瞭然ですね。

  なんせ、アメリカばっかに頼るのもね。大統領が変わってしまえば、国の政策も方針もガラッと変わる。今の安倍さんとトランプは仲が良さそうだけど、いざという時は分からない部分がある。その時用の自衛手段は必要だと考えています。

――未来への「いざ」という時。

  今はアメリカが強い力を持っているけど、未来はどうなるか分からない。例えば中国も世界のリーダーになろうとしているし、これからの将来は誰にも分からない。だからこそ、時代の流れを見ながらそれに合った対応をしないと。今の日本だって、正直言ってその「対応力」を求められているよね。

  時代はどんどん変化していきます。今の憲法(日本国憲法)の大元だってアメリカが作ったものだし、必要なところは変えないと…とは思います。まあ、メキシコはちょっと変えすぎだけどね笑。

 

【中編に続く】
「人とは違う」スペイン語

 

今日のゲスト

Hirokazu Etoさん

現在はフロリダ州サラソタ在住。
阿蘇製薬アメリカ支社の経理シニアディレクターを務める。
アメリカ・メキシコ間でのマキラドーラ・ビジネスに精通する。
香港出身の妻と2人の息子がいる。

 

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