「『それじゃ仕事にならないよ』っていうのは、
社会人生活で一番ショックではあったんだけど
不思議と恨みとか悲しみは全く湧かなかったんだよね」
乙が自らの新人時代を振り返る。
「へぇ〜。
乙にしては随分珍しいじゃん。
俺だったらそんなこと言われたら裏で暴れるぞ笑」
一応年上である甲だが、
実質タメの同士のような認識をお互いにしていた。
「まあ確かに、
そのへんの通行人から
『そんなんじゃ仕事にならないよ』とか言われたら
グサッといく人がいても不思議じゃないよね笑」
「でもさ乙、
どうしてそれはまた全く怒らなかったの?」
「その通りだったから」
場の空気がほんの一度下がる。
「当時のアナリストとしての私は、
次にどういう手を打つべきか全く分からなくて
『とりあえず既存の業務を徹底しましょう』みたいな
後ろ向きな提案しかできなかったの」
「ほう」
「それで一発雷を落とされたわけだね」
甲は不思議と安堵しながら座る姿勢を変えた。
「でも、流石に直属の上司に向かって
『できることは全部やりました!後は現場の責任です』
なんて絶対言えないじゃんか」
「まあ、確かに笑」
「だから、もう直接聞いたんだよね。
『じゃあどうしろっていうんですか』…って、
もちろんこんな口調では言ってないけど」
甲が気持ち驚いたように目線を向ける。
「あら…乙も相変わらずだよね。
本音ばっかり。迷ったら言っちゃう。
でも、その上司って人もそうみたいだけど」
「うん、私以上だね笑」
「で?なんて答えたの、その人」
乙は一呼吸置いてから、ゆっくりと答えた。
「『現実から未来は予測できる。
過去と現在のデータを徹底的に洗い出せば、
ここが足りない・ここがまだまだ…というのは必ず出てくる。
出てこないのはアナリストとしての知的怠惰だ』…だってさ」
「うわあその人、
まるで『企業参謀』みたいなこと言うねえ…
しかもそれを新人に求めるなんて」
「まあ、今から考えれば
『だから』その会社に入ったんだけどね」
乙の顔は不思議と清々しく、そして凛々しかった。
…筆者、スミカ(Rick)
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