乙が短大でTutorをしていた際、
エッセイのチェックを依頼してきた生徒に対して
一番多く尋ねた質問はこれだった。
「この文章って、どういう意味?」
文法は気がついたらついでに直す、という認識だ。
(だから、必然的に
文法の訂正が多すぎるようなレベルだと
Tutorとしての乙は使い切れない)
「え、どういう意味って…『良い』ってことですよ」
今回来た甲はぶっきらぼうにそう答えた。
「だから、その『良い』ってどういう意味よ」
甲が差し出したペーパーに書かれた
“Eating vegetables everyday is good for us.”
という一文に乙は突っ込んでいた。
「だから…いいってことですよ」
「何に?」
「えっと…健康にですね」
「ほらそれ。
good for our healthでいいじゃない」
「ほう…」
「エッセイで一つ大切なのは、具体性ね。
読んでる人は書いてる人の気持ちなんて分からないからね。
何も事前情報がない状態から、文章だけで伝えないといけない」
「なるほど…」
大学内施設という関係上、
日本語での指導はある程度
声のボリュームを抑えてはいる。
「じゃあ次行こうか。
『健康にいい』っていうのはつまりどういうこと?」
「健康にいい…
例えば、身体にいいとか」
「つまり?」
案の定、乙の評判は二分するが
甲にはそこそこ効いたようだ。
「長生きできる!病気になりにくい!」
「ほら、そういうのでいいんだよ。
で、その理由や背景をまた掘ったり
言い方を変えたりしていく。
こうやったよく考えるだけで、
書けるエッセイの質も量も格段によくなるよ」
のちに甲は乙の門下生になるが、
それはもう少し後の話である。
…筆者、スミカ(Rick)
コメント