「オーダーメイド型カリキュラム」という言葉を掲げる学習塾は多い。
念のため、オーダーメイドは
(英語ではmade-to-order、特に服や靴に対して使う場合はbespoke tailoring)
日本語で言うところの受注生産であり、
学習塾業界で言えば
「何をどれくらい教えるのか・塾で何をするのかの予定をゼロから作ること」を指す。
元々オーダーメイドという言葉はテーラー(服の仕立て屋)から来たものだ。
私はファッションの専門家ではないのであまり詳細に話すのは避けるが、
オーダーメイドには大きく分けて以下3種類存在する。
- パターンオーダー
- イージーオーダー
- フルオーダー
上に行けば行くほど「これまで使った・作った型を再利用する」、
下に行けば行くほど「この人の為に新しい型を作る」というイメージをしていただければ間違いない。
さて学習塾の話だが、
塾が「オーダーメイドカリキュラム」と謳う内のほとんどは
「既に存在する教材やカリキュラムの中から
その人にベストなものを選び抜く・その人用にある程度調整する」
というものだ。
これはつまりパターンオーダー、最も簡易なものである。
ここで大切なことは、
「完全オーダーメイドカリキュラム」
「フルオーダーメイドカリキュラム」
「生徒一人一人にきめ細かい指導」
と謳っているところも含めてほとんどパターンオーダーであるということだ。
あたかもフルオーダーであるかのように謳っているところも含め、だ。
これは少し考えてみれば絶対に分かる。
スーツや革靴などにおける「フルオーダー」とは、
- その人の身体のサイズを全て正確に採寸、型紙を作る
- それを元に、完全オリジナル・宇宙で一つだけの製品を作る
- それを販売、何かあればアフターサービス等対応する
こういうことである。
これを学習塾に置き換えると、
- その生徒の長所・短所・課題を客観的に・正確に全て洗い出す
- それを元に、完全オリジナル・宇宙で一つだけの教材やカリキュラムを作る
- その教材・カリキュラムで授業を進め、何かあればすぐ修正・改善する
こういうことになる。
塾講師としてこれだけは断言してもいいが、
こんなことができる学習塾はこの世に存在しない。
それは学習塾ではなく「専属家庭教師」である。
本当にその生徒のことだけに専門特化できる専属家庭教師ならともかく、
学習塾は「一人だけのことを考えればよい」ということは絶対にない。
同時期に複数の生徒を同時に担当しなければならないのが普通だ。
そんな中一人一人に「フルオーダー」なんてしていたら1日100時間あっても足りない。
そんな学習塾ができることといえば、
- 一人一人の課題を「ある程度」捉える・分析する
- それを元に、既存カリキュラム・既存教材の中から最適なものを選ぶ
- 実際に授業を進め、添削や質問等に答える
せいぜいこの程度の「パターンオーダー」ぐらいである。
生徒一人で売り上げが百万円単位で立つならともかく、
塾の生徒単価はどんなにいっても年50万程度である。
パターンオーダー程度に留めておかないとビジネスとして成立しないのだ。
だが実際には、
やっていることはパターンオーダーなのに
「弊塾は一人一人に合わせた完全オリジナル・オーダーメイドカリキュラムです!」
などと訴求する塾もこの世にはある。
「生徒一人一人にきめ細かい指導」
などと言っておきながら集団授業で1クラス数十人詰め込んでいる塾も少なくない。
だが、それは缶ジュースのオレンジジュースを
「100%フレッシュジュースです」
といってお客様に出しているのと同じである。
こういう塾はオーダーメイドという言葉は
パターンオーダーのことだと思っているから悪気はないのだが、
その「悪気はない」というのがこれまた最悪だ。
換言すれば、学習塾において
「オーダーメイド」という言葉に過度な期待を持ちすぎてはいけない。
本当にあなたにあった学習体験を生み出すためには
塾側の力だけではなく、あなたが自分で気付くことも不可欠であるということだ。
…筆者、透佳(スミカ)
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