「なぜ、論文は書きづらくなってしまうのか」experienced。

ノンフィクション – experienced

「ねえ、あの記事の意味教えてよ。
あれ、もしかして俺に向かって書いてる?」

「大丈夫。
『あれって自分のことですよね?』って
言ってくる人は大体違うから。今回ももちろん違う」

甲から届いた憂の一報に対し、
乙は一瞬で否定する吉報で返した。

「なるほど、それは良かった。
だけど、実際ああいう人多そうだよね」

「現に前いたじゃん。
例えばだけど甲さ、以前に
『消費税は撤廃すべきだ!』という
小論文を書いていた彼の話は覚えてる?」

「ああ、めっちゃ覚えてる。彼ね。
あれはまあとんでもなかったよね」

甲と乙は以前に同じクラスを履修したことがあり、
その際に良くも悪くも話題となったのが
その『彼』の書いた論文だった。

「俺、実は
彼のPeer Review(査読)担当だったんだけど。
まあとんでもなかったよね」

「ほお、そうだったんだ。
なんだかんだいって、
私は直接彼のエッセイは読んでないんだよね。
どんなエッセイだったの?」

今だからこそ許される甲の裏話である。

「仮に消費税を撤廃したとして、
『じゃあその削った分はどうするの?』っていう
Counter Questionに対しての答えが
『もっと高所得者から吸い取れ!』だったんだよね。
もう、笑うしかなかった」

「そういうのをルサンチ…いやなんでもない」

「乙はすぐそうやって本音を言う笑」

甲は
乙の思ったことがすぐ口に出る性格が
嫌いになれなかった。

「その彼は論文の中で
累進課税制度をあたかも大正義のように扱ってて、
『消費税なんて不平等だ!』って吠えてたんだよね。
でもさ、不平等なのはどっちだよって話」

「なんというか、
自分が嫌だからそう書いてるんだろうね笑。
『使った分だけ一定の%で徴収する』って、
逆にかつてないほど平等な税制度なのにね」

「そうそう。
逆に累進課税制度っていうのは、悪い言い方をすれば
『働き者がバカを見る』ってことだろ。
それこそ本当の不平等だと思うんだけどな」

甲はこういった類の話には教養がにじみ出る。

「でまあ、色々考えとかあると思うからさ、
消費税が善か悪か、
累進課税が善か悪かのってのは一旦置いとこう」

「うん」

「彼の論文がまずかったのは、
例えば今話したような納税制度や歴史を一切考えずに
『ただ、自分が苦しいから』という一点だけで
あんな論文を書いたことだよね」

甲の目が冴える。

「なるほど。
確かに、『何も知らない』って罪だよね」

「知った上で議論すれば面白い議題なのに、
無知のくせに
あたかも自分の知っていることがこの世の全てのように書いたら、
そりゃあああなるよね」

乙も、一ライターとして
いわば『混沌、七窮に死す』的な戒めとして
常に意識していることを甲が代弁してくれた。

「で、どうなったんだっけ、結局?」

「ああ、『F』だよ。
周りの意見聞かなかったからね」

これも世の常である。

 

…筆者、スミカ(Rick)

「なぜ、論文は書きづらくなってしまうのか。」

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