「刹那の感情」experienced。

ノンフィクション – experienced

「甲はさ、
『こういう人だけは絶対に無理』
っていうのはある?」

気の置けない友人である甲に乙は尋ねた。

「そうだね、
特に怒りの感情をその場でぶちまける人は無理かな」

いつもの渋い声で甲は快く答えた。

「あぁ、すぐに怒っちゃう人?」

「まあ正確に言うと、
沸点が低いのは正直別に問題ないと思うんだよ。
問題なのは、その怒りをその場で炸裂させて
物にあたったり怒鳴ったりで発散させる人ね」

「あぁ、なるほどね笑。
怒りに任せてその場で行動しちゃう人か。
特に嫌いな理由とかはある?」

そんな人間は乙の周囲にもゴロゴロいる。

「まず、その怒りの事情は関係なく
『怒っている自分を見て他人はどう思うか』
という発想がないのはいただけない」

「あぁね…」

「物にあたったり怒鳴ったり目つき悪くなったり。
『うわあ、コイツヤバい人だな』って思われる…
って考える感性がないのがキツイ」

「確かに、事情は別として
明らかに怒っている人には
半径一キロメートルに近寄ってほしくないもんね」

「そうそう。この際原因はどうでもいい。
『頼むからそれを周囲に撒き散らすな』
『俺の今日一日が台無しになる』って
その場の人間は全員思っているよ」

公共で怒鳴ってはいけない原因その一。

「そして、こっちがむしろ本編だと思うんだけど」

甲は一呼吸置いてから話し始めた。

「その場で怒りを発散させることによって
満足して終わっちゃうのがなによりももったいない」

「ほう、なるほど」

「だって、怒りのエネルギーって強大だぜ?
そのエネルギーを取っておけば
後々莫大な動力源として活かせるのに、
その場で全部使っちゃうなんてナンセンスだよ」

感情を合理で分析するのはいかにも甲らしい。

「じゃあ例えばスポーツでいこうか。
乙もスポーツやってたことだし」

「うん」

「試合に負けたとして。
悔しくてその場で泣いたり暴れたり物に当たる人と、
全く動じない態度で淡々とその場を後にする人とでは、
どちらの方がプレイヤーとして大成すると思う?」

「それね、昔は私も前者だって思ってた。
でも、どうやら違うみたいだね」

これには乙も大いに思い当たる節が…どころか、
弱いくせに負けたら物にあたるのが
在りし日のまさに乙自身だった。

「そう。その場で怒っちゃう人ってさ、
『それで満足しちゃう』んだよ。
その場で怒りを全て発散させて
綺麗サッパリ精算しちょうとしちゃってる。
一見正しいように見えるけど、実はこれが間違い」

「うん」

「後者の方は、
悔しさは同じなのにその場では決して発散しない。
つまり、その悔しさを次勝つための練習や準備の
モチベーションとしてひたすら燃やすことができる」

「もらったガソリンをその場にぶちまけるか、
そのガソリンを取っておいて
後からゆっくりと燃やし続けるか…か」

「お、流石乙。そういう比喩うまいよね」

乙のこの技術も、ガソリンの賜物だった。

 

…筆者、スミカ(Rick)

「刹那の感情。」

【追伸】
怒ってもいい。
むしろどんどん怒るべきだ。
だが、その発散方法には細心の注意を払うことだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました