3月14日。
乙は特別この日のために
甲にプレゼントを贈ろうとは計画していなかった。
遠距離ということもあり、
言葉で愛を伝えて
あとは今度直接会ったときに
精一杯伝えてあげればいいと思っていた。
『もし同棲してたら、ご飯に連れて行くよ』
その一言を投げて、
差し迫った本の執筆に進んでいた乙。
いつの間にか寝ていた乙を一報が突き刺した。
『私に飽きたんでしょ?』
乙はしばらくスマホを見れなくなった。
そんなことを言われるなんて乙は想像していなかった。
言い訳を並び立てる乙を甲はぶった斬った。
『私の事を大切に思ってくれてないんだなってよく分かった』
頭が真っ白になった。
甲をここまで悲しませた自分自身が許せない。
赦せない。
一気に自分を追い込んで、
その「『追い込んでいる自分』が許せない」
という負のスパイラルが乙を襲った。
そのままの衝動のまま、
今の思いの丈をそのまま乙は書き殴った。
伝える言葉は一つだった。
『ちゃんと「ありがとう」って伝えられなくてごめん』
言って初めて伝わった。
甲はその想いを受け取った。
『分かった、ありがとう』
師匠の言葉が頭を駆け巡って吹き荒ぶ。
「伝えたことではなく、伝わったことがすべて」
乙は死んだ。
「死ぬほど後悔する」とはこのことだなと心に刺さった。
壊れた表情でもう一度スマホに向かい合った。
次に会う約束を決めながら、
乙は乙の師匠と全く同じ誓いをすることとなる。
『あなたが出す本すべてに、
2人だけの秘密のメッセージを忍ばせておいて』
これは求められたわけではない。
だが、後に求められることとなる。
この文章を初めて見た時には乙ですら
「流石の師匠でもこれは寒いな(笑)」と
恥ずかしながら思っていた。
今なら分かる。
それが仕事である。
一番大切な人を幸せに出来ない仕事は仕事ではない。
この時ばかりはどんなニュースも頭から抜けていた。
その約束を果たす頃、二人は一周年を迎える。
…筆者、スミカ(Rick)
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